大学時代にバルセロナ自治大学の教育学部へ1年間交換留学を経験し、帰国後は教育会社に5年間勤務。その後、社会人6年目で仕事を辞め、30歳手前で駆け込みワーホリに挑戦し再びバルセロナへ戻ってきました。ワーホリでは、バルセロナ大学院の臨床フィトテラピー科の授業を受け、仕事をしながら植物療法(ハーブ)の学問を勉強していました。ワーホリでのお仕事は、日本食レストランでのアルバイト、そしてヨーロッパのアパレルブランドのバイヤーのお仕事を経験しました。
今日でワーホリ生活がちょうど一年たち、ついに終わりを迎えます。あっという間のような、長かったような、そんな不思議な感覚。でも確実に言えるのは、二度のバルセロナ生活でたくさんのかけがえのない経験を得ることができたということ。振り返りも兼ねて、ここに綴ってみました。
- スペインにハマったきっかけ
- バルセロナを選んだ理由
- スペイン生活は驚きの連続
- バルセロナ生活で楽しかったこと
- 海と山の大自然!地中海料理を堪能
- バルセロナ生活で苦労したこと
- 自ら行動して変わったこと
- バルセロナのお仕事ライフ
- 人生と向き合うスペイン巡礼
- スペイン語で広がる世界
スペインにハマったきっかけ
スペインとの出会いは遡ること10年前。 当時大学1年生だった私は、言語の必須単位を取るために第二言語の履修を考えていました。一番初めにやりたいと思ったのは実はフランス語でした。英語以外の言語をマスターしたいという強い思いがありましたが、それ以上には大した目的はなく、フランス語はなんだかオシャレだし、世界でも通用しそうだし、なによりもガイダンスをしていたフランス人の学生がとてもかっこよかったので「なんかよさそう♪」という不純な動機でエントリーすることにしました。ところが、そのガイダンスのフランス人の存在が際立ったのか、1年生の間でフランス語が人気になりすぎて抽選に落ちてしまいました(笑)仕方なく、最初の半年間は英語だけの履修になってしまいました。「せっかく大学に入ったのだから、英語以外の言語をやりたい...!」という気持ちで、次の学期では確実に受かりそうな言語を選ぼうと狙いを定めることにしました。そこで候補に浮上したのがスペイン語です。スペイン語は同じラテン語系の言語で、世界での話者数もかなり多い言語。しかし、ヨーロッパの言語の中ではフランス語やドイツ語より選ばれにくい...そんな印象がありました。「私にちょうどいいかも」と思いエントリーすることにしました。 こうして、念願叶ってようやく、第二言語のスペイン語クラスを受講できることになったのでした。「抽選に落ちた」というなんとも不思議なご縁でスペイン語と巡り会うことになったのです。
それからはじまったスペイン語のクラス。そこでスペインの魅力に取り憑かれてしまいました。私のスペイン語学習の意欲を高めるきっかけとなったのが、教授陣たちによる明るく楽しい授業。当時の授業は週4日、みんなで恋愛ドラマ仕立てになっている動画を見ながら、その中で出てくる文法や表現を学んでいくというスタイルでした。毎回の授業で動画を見進めていくのですが、「この先どうなるの!?」というドキドキする展開のところでいつも終わってしまうため、続きが気になって次の授業が楽しみになりました。その動画の舞台となっていた街は、もちろんスペイン各地です。そこで登場するスペインの景色にもいつもうっとりし、「いつか行きたいなぁ」と妄想が膨らみました。
テストの日には、教室の後ろにパエーリャが用意されていました。テストを頑張ったご褒美に、終わった人から順に食べられるというルール。みんなはその美味しそうな匂いにつられ、テストの答案を見返すこともなく高速で終わらせていきました。スペイン語のプレゼンテーションの授業では、日本のお笑いをスペイン語でやりました。こんな授業もみんな本気なのです。それから、ある友達の一声で、スペイン語クラスのみんなで「白い服DAY」とテーマ決めて授業に参加するイベントを実施しました。全員同じ色の服を着ていったため、スペイン人のおじいちゃん先生が「なんで言ってくれなかったの!私もやりたかった!」と少し拗ね気味に言い出し、次の授業で「黒い服DAY」にチャレンジすることになりました。見事にお葬式のような状態になりました(笑)そんなこんなで毎日愉快な授業が繰り広げられ、スペインらしい温かい雰囲気が本当に楽しくて大好きになりました。こうしてスペイン語にみるみると取り憑かれていったのでした。
バルセロナを選んだ理由
大学3年生の時に、初めてのスペイン渡航でバルセロナ留学を経験しました。バルセロナを選んだ理由は、スペイン第二の大きな都市であるということと地中海を楽しみたかったからです。実際には、交換留学で合格した大学がバルセロナにあった、というのも理由にあります。当時はバルセロナのことを何も知らずに留学に行くことになりましたが、一度目のバルセロナ生活を経て大好きになり、二度目のワーホリでも再び戻ってくることになりました。
スペイン生活は驚きの連続
ゆる〜い生き方にびっくり!
スペイン生活がはじまってからは驚きの連続でした。スペインに来た日本人は必ずと言っていいほど、日本とは真逆の「ゆるくて適当な」生き方に驚きます。スペインにハマったきっかけのひとつでもあるのですが、スペインの人々は社会的な繋がりをとても重視し、家族や友達、人との繋がりをとても大切にする文化があります。自分も周りも、みんな完璧ではない部分を許しあい、助け合いながら生きています。そしていつでもどこでも誰とでも、おしゃべりを楽しみます。そうした文化は働き方にも現れていて、これが最初はカルチャーショックでした。お仕事中は、隣の人とおしゃべりしながら接客をするのは当たり前。カフェでは、お客さんを目の前にしても焦る様子もなく店員さん同士でおしゃべりをしています。お客さんとも冗談を交わしながら、ほっこり心温まるサービスをしてくれます。公的な書類手続きのために警察署に行った際には、警察官たちが「何時にカフェいく?」と話しながら私の書類チェックをしていました(笑)お仕事中は神経を張り詰めていなくたって大丈夫。悩んだりわからないことがあれば、誰かに話せば助けてもらえますし、ミスをしても最後は「”No pasa nada!”(ノーパサナダ!)どうってことないよ」と寛大に温かく包み込んでくれます。
サービスを受ける側からすると、「なんでこんなに時間かかるの?!」とか「なんでこんなに適当なの?!」とイライラしてしまうことも多々ありましたが、今では「まあいっか」と思えるようになりました。そして働く立場になってみると、結構気が楽です。バケーションの季節にはしっかりと休みをとって楽しむので、同僚と「次のバケーションはどこに行くの?」と話をしたりする時間が楽しいです。
周りの人とリラックスしていろいろなことを共有する文化は、ストレスを軽減し、明るく楽しく生きるための社会の基盤になっているように感じます。スペイン人はユーモアや表現力がとても豊かで、人と人、心と心で関わって動いています。人間味があって、適当だけど周りにも寛容で親切。こうしたスペイン人の生き方を見ていると、「日本人と足して2で割るとちょうどいいんだよな〜」と常々思うのでした(笑)
食事は1日5回!外食の集合時間もおかしい
スペインに来て最初に驚いた文化は、食習慣です。スペインに到着して最初の1週間、お昼ごはんを食べに12時ごろにレストランにいくと、お客さんが私一人しかいませんでした。「あれ?!寂しい...」。また別の日に、友達と夜ごはんのお出かけの約束をすると、なんと集合時間が21時でした。「え...おそ?!」。後にわかったのは、スペインが独特な食事の文化を持っていて、1日の食事の時間はなんと「5回」だということ。
もちろん家庭や人によって違いはありますが、基本は次のような1日の食事の流れになっています。まずは朝ごはんからスタート。朝食は「Desayuno(デサジューノ)」といって日本と同じように、朝起きてから7~8時ごろにパンやヨーグルトをいただきます。11時ごろになると、軽食タイムの「Almuerzo(アルムエルソ)」があります。この時間には「Bocadillo(ボカディージョ)」というスペイン流のサンドイッチを食べます。バケットに生ハムなどを挟んだボリューミーな軽食です。続いて、お昼ごはん。昼食「Comida(コミダ)」は、なんと14時ごろ!スペインではお昼ごはんが一番豪華な食事とされています。ワインやビールも一緒に楽しみます。代表的な料理であるパエリアも、昼食にいただくのが主流です。そして16時~18時ごろになると、おやつタイムの「Merienda(メリエンダ)」。甘いものだけでなく、おつまみのタパスを食べる人もいます。そして最後は、夜ごはん。「Cena(セナ)」と呼ばれ、なんと...21時からスタート!お昼ごはんが最も豪華な食事なので、夜ごはんはサラダやスープ、おつまみなどを軽く済ませます。写真は、スペイン人家族とのおしゃれな夜ごはんタイムです。友達と外食の約束をすると、21時や22時からスタートすることもよくあったので、「もう眠いよ...。」と断ることもありました。ワーホリで再びスペインに戻ってきてからは周りの友達もみんな社会人になっていたので、学生時代の生活とは変わって19時頃から夜のタパスをつまみ、早めに帰宅して寝る生活になりました。スペイン独自の食習慣に驚きました。
シエスタ&日曜日の閉店、何度も失敗
スペインで最もよく知られている文化は、“Siesta(シエスタ)”ではないでしょうか。お昼の14時~16時頃の時間にお昼寝をする習慣のことで、よく日本人の友人から「本当なの?」と聞かれることがあるのですが、これは本当です。シエスタの時間や日曜日になると、お店が閉まってしまいます。実際のところ、その時間帯になると多くのお店はシャッターをおろし、学校の授業や仕事も一度区切りをつけて休憩時間となります。この時間の過ごし方は、20~30分程度の仮眠を取り、残りの時間は昼休憩としてゆったり体を休める人が多いように思います。パジャマに着替えてベッドに入ってしっかり睡眠を取る人もいます。人によってさまざまです。
眠るのが大好きな私にとっては嬉しい文化。このような文化が生まれた背景には、長い日照時間が関係しています。朝は日本と同じように7時頃から活動が始まりますが、夜は20~21時頃まで空が明るいため遅くまで活動しています。私が留学中に通っていたバルセロナ自治大学の授業スケジュールは、午前は8時~13時と午後は16時~21時という日本では考えられない授業時間!(笑)シエスタの時間に一度家に帰り、お昼を食べて休憩をしてから午後にもうひと頑張りといったところです。ワーホリでは、一緒に過ごしていたスペイン人ファミリーは7時ごろから仕事をはじめ、なんと15時には家に帰ってきていました。私が経験したバイヤーのお仕事も、朝からスタートして16時半には終わっていました。効率のいい働き方ですよね。シエスタや日曜日の休業は、THE日本人の私には慣れるまでやっかいで、何度も何度も間違えていました。シエスタの時間や日曜日にバルセロナの中心地に出て、着いてから「あ!行きたかったお店が開いていない!」ということが多々ありました。今では、そんなことも全ていい経験です。
手続きに時間がかかる!
スペインへの留学やワーホリ、移住で最も難関と言ってもいいくらいに大変なのが、様々な手続きです。住民登録(エンパドロナミエント)、学生証の取得、仕事をするための社会保障番号の取得、健康保険証(カード)の取得、外国人居住身分証明書(カード)の取得...と本当にたくさんの手続きをしなければならないのですが、これがとにかく大変!一筋縄ではいかず、移住者の間で必ず会話のネタになっています。
まず、手続きをするためには市役所や警察署に行かなければなりませんが、予約なしでは入ることもできません。しかし、この予約が全くと言っていいほど取れないのです。月曜日や木曜日の15時に予約枠が開くらしいという噂もあったりしますが、クリック戦争です。予約を取れたとして、次に大変なのが必要書類を正確に集めて提出すること。予約が取れたとしても書類の不備があってやり直しになったりするので挫けそうになりました。最初の難関となる住民登録は、住んでいる家のオーナーに書類を出してもらう必要があります。しかし私の友人たちはよくここでつまづいていました。家のオーナーが全く返事をくれず、バルセロナに到着後6ヶ月経過してもまだ住民登録が終わらず、正規に仕事をすることができないので諦めて引っ越すことになった人もいました。そんなカオスなスペインの手続きですが、ここに住むのであれば根気よくひとつひとつ、なんとか乗り越えなければならない山なのです。
私が経験した一番の呆れエピソードは、大学の学生証の発行時。大学の学期がはじまってすぐにオリエンテーションの週があり、学事に呼ばれて顔写真を撮影しに行きました。撮影後「学生証を発行するので、2週間後に取りに来て」と言われ、2週間後に受け取りに行ったところ「まだできてないから1ヶ月後に取りに来て」と言われました。そこで1ヶ月後に受け取りに行ったところ「まだできてないから3ヶ月後に取りに来て」と言われました。そしてみなさんのご想像通り、3ヶ月後に行ってもできておらず、なんと留学が終わる1年後に再度行ってみたところ「まだできてない」と言われたのです!!!これにはさすがに「最初から作ってないでしょ(笑)」と笑ってしまいました。留学の記念に学生証が欲しかったので残念ですが、スペインの手続きはこんなことが日常茶飯事。気長に一つずつチャレンジしていくことが大切です。「なんだそれ!」と思うことがたくさんですが、それも含めてスペイン。そのうちおもしろがって愛せるようになります。
バルセロナ生活で楽しかったこと
陽気なスペイン人と世界各国の友達
留学やワーホリの醍醐味は、なんと言っても人々との出会いです。バルセロナは世界各国から人々が集まる人種のるつぼ。スペイン語を通じて、陽気で明るいスペイン人・ラテンアメリカ人の友達がたくさんでき、一気に自分の世界が広がりました。小さなことにも大爆笑して騒いでいるラテンの陽気な雰囲気に巻き込まれ、私も明るくオープンな性格になりました。それだけでなく世界各国からやってきた様々な年代の人たちと友達になり、互いの文化を共有したり議論したりすることができたことはかけがえのない人生の財産になりました。今まで自分が持っていた当たり前の価値観が壊れ、新しい価値観や視点を持てるようになりました。「自分はアジア人だ」というより大きな括りでのアイデンティティが生まれたことも不思議な感覚でした。毎日の出会いや刺激のおかげで、日常生活の全てが新鮮でした。カフェでおしゃべりをしたり、校内を散歩したり、スーパーをウロウロしたり、小さなことだけでも楽しさいっぱい。少し足を伸ばして近郊の街やヨーロッパを旅したり、パーティーに行ってみたり...留学生らしく青春の思い出を作ることができました。
ハグとキスで感じる人々の温かさ
スペインの文化の中で大好きなことのひとつに、ハグとキスがあります。友達との待ち合わせ時や別れ際、はじめて知り合った人との挨拶には、老若男女関係なくハグとほっぺにキスを2回。この2回のキスのことをスペインでは「Dos besos(ドス ベソス)」と言います。キスの順番は、右のほっぺ同士(顔は左側に)、次に左のほっぺ同士(顔は右側に)。毎日必ず生まれるこのスキンシップは、人の温かみを感じられる瞬間です。また、人に会ったときには必ず「Guapo!(グアポ):かっこいい子」「 Guapa!(グアパ):可愛い子」と呼びかけ合います。こうしたチャーミングな挨拶文化は、スペイン人にとっては当たり前のコミュニケーションですが、異国の地に来た私にとってはじんわりと温かい幸せを感じられるとても嬉しいものでした。
カフェやお店など、知らない人であっても「Guapa!(グアパ):可愛い子」と呼んでもらえるので、留学中の寂しさが和らぎ、無くしかけていた自信を取り戻すことができました。おもしろいことに、グループで遊ぶ時も全員とハグとキスをするので、なかなか挨拶が終わりません。ホームパーティーなど、集まる人が多ければ多いほど大変。挨拶だけでものすごい時間を使ってしまいます。そして、別れ際に「またね〜」と手を振る時には、投げキッスをすることもあります。日本ではイタい雰囲気が出てしまう投げキッスですが、スペイン人がやると愛らしく爽やかにキマるので不思議。仲良しの友達同士でやるととても嬉しい気持ちになります。メッセージのやりとりでも、最後の締めくくりに「Un abrazo(ウン アブラソ):ハグ」、「Un beso(ウン ベソ):キス」と書き残して終わるので、やりとりをする度にとても心が温まりました。
バルセロナは芸術・建築の街
バルセロナでの生活は、日常生活にも楽しさが散りばめられています。ピカソやダリ、ガウディ、ミロ…と多くの芸術家や建築家が活躍していたバルセロナ。街の至るところに数多くの芸術作品が残されており、ふと立ち止まってうっとりと建物を眺めてしまうほど街歩きが楽しくなりました。世界遺産のサグラダファミリアやカサ・ミラ、カサ・バトリョ、その他にも数々の建築物が日常の風景となり、こんな贅沢なことがあっていいのだろうかと何度も思いました。目的もなくお散歩するだけでもワクワクと心が弾み、普段はお家にこもりがちな人でも外に出て行きたくなります。
そんなアートな街で育ったからなのか、地元の人たちもセンスや遊び心が抜群です。地元アーティストたちの作品が集まるショップに足を運べば、可愛いデザインの雑貨や陶器、イラスト、アクセサリーなどがたくさん!タイル柄やカラフルなものが多くて明るい気持ちになります。街を歩き回ってお気に入りの路地やお店を発見し、気づけば自分だけの観光コースのできあがり!インテリアやファッション小物など、少しずつこだわりのコレクションを集めていくこともとても楽しいです。スペインらしさを取り入れた空間を目指して、アイテム選びをこだわるのが趣味のひとつになりました。
海と山の大自然!地中海料理を堪能
私が思うバルセロナの魅力は、街の中心地だけでなく近郊の海と山、どちらの大自然も楽しめるところです。気候は比較的安定していて、いつでも太陽がキラキラと降り注いでいます。そんなバルセロナの大地でいただける食事は、海の幸、山の幸をふんだんに使った地中海料理。スペインには新鮮な野菜や果物、魚、ナッツ、豆、肉、穀物といった豊かな食材が豊富にあり、年間を通じて絶品のスペイン料理を堪能することができます。本場のパエリアはもちろんのこと、気軽に楽しめるバル料理のタパスや生ハム、ワインにビール...と、どれを食べてもほっぺたが落ちるくらいに美味しかったです。おかげで留学中にしっかり太りました!スペイン料理は日本人の口に合う味わいなので、飽きることはありませんでした。(もちろん、飽きたら日本食もすぐ食べられます。)
カタルーニャ地方ならではの「Pan con tomate(パン コン トマテ):パンにトマトとガーリックとオリーブオイルを塗ったもの」や「Cava(カバ):スパークリングワイン」、「Butifarra(ブティファラ):豚肉の腸詰め」など、美味しいお料理がたくさん。オリーブオイルやパテ、スパニッシュオムレツ、チーズ、ワインなどはお家でも気軽に楽しめるので、色々と試してお気に入りを見つけていました。
バルセロナ生活で苦労したこと
友達ができない
楽しいことがたくさんのスペイン生活ですが、上手くいくことばかりではありませんでした。留学やワーホリを経験すると一度は必ず直面する「友達ができない」という悩み。私もはじめてのバルセロナ留学でこの問題にぶつかり、孤独感を経験しました。友達ができないというのにも色々なパターンがあり、整理してみると次の3つの段階に分けられます。
- 日本人の友達ができない
- 同じ留学生の外国人の友達ができない
- 現地のスペイン人の友達ができない
どこの段階で悩んでいるのかは人それぞれですが、とにかく友達ができないと感じている時は、とても苦しいものだと思います。
私の場合は、日本人・中国人・韓国人といったアジアの留学生とは仲良くなれましたが、ヨーロッパから来ていた留学生や現地人の友達とはどこか一枚隔たりがあるような、完全には打ち解けることができない難しさを感じました。私が所属していた教育学部はローカルな環境でした。同じ学部にいた留学生はオランダ人2人とスウェーデン人1人と日本人の私1人。あとは全員スペイン人でした。彼らは同じコミュニティとして固まる傾向があって、オランダ人、スウェーデン人は英語がネイティブ並みなのでそこで仲良くなってしまいます。近くの学部にはイタリア人が数人、ポルトガル人が数人いましたが、イタリア語やポルトガル語はスペイン語と似ているので圧倒的に環境に馴染みやすく、ワイワイと楽しんでいました。そして現地のスペイン人は留学生を全く気にかけていません。大学の授業でさらに難しいところは、クラスがあるわけではなく大人数の講義がメインのため、毎回集まるメンバーが違くて友達を作るのが至難の業ということです。逆の立場を考えてみると、大学で留学生に声をかけることがないのも当たり前のことですが、当初は日本人が近くにいない環境で英語もスペイン語も十分ではない自分に自信もなく、受け身の状態で「誰にも気にかけてもらえない…」と寂しさや孤独感を感じていました。
立ちはだかるスペイン語の壁
「スペイン語ができない」という語学の壁にもぶつかりました。思っていることを十分に表現できないもどかしさや、会話に入れない悔しさなどを日々感じ、何を話したらいいのかわからなくなってしまいました。海外では自己表現をしっかりすることも重要です。周りの人たちは自己主張がとても上手で、その時々の感情をわかりやすくオープンに表現し、はっきりと自分の意見を主張します。日本社会で協調性を叩き込まれて育ってきた私は、相手の気持ちを意識しすぎて自分の主張が後回しになりがちでした。スペイン語を話す機会も少なくなり、自信がつかない上に友達もできず悶々としました。
自ら行動して変わったこと
友達づくりは積極的に
友達が多ければいいということでもなく、独りが悪いということでもないですが、やっぱり色々な人と交流して楽しみたいという気持ちがありました。得たいものがあるならば、自分が変わるしかありません。少し勇気を出して、自分が変わる決意をしました。
まずはじめに、出会えた一人ひとりをとにかく大切にしようと意識しました。少しでも話してくれた人、声をかけてくれた人を大切に。それは日本人でも留学生でも現地人でも、大学の教授でも同じです。感謝の気持ちを持って接したり、自分から積極的にカフェに誘ってみたりと「私はあなたに興味があります。大切だと思っています。」と示すことを意識したところ、相手も自分に興味を持って大切にしてくれるようになりました。ポイントは、自分から誘うということです。誘うのを待っていたらいつまでも誘われないということに気がついた私は、ダメ元で誘ってみるようにしました。その際に「何する〜?」「どうする〜?」といった相手頼みなコミュニケーションを取ると失敗します。なぜなら、人は楽しそうにしているところに集まってくるからです。相手頼みにするのではなく、「このカフェに行こうと思うんだけど来る?」「自分はこんなことしようと思ってるけど一緒に来る?」というように、自分が楽しいことを考えて「私の予定に参加する?」というスタイルで誘うと上手くいくことがわかりました。こうすれば、断られても自分ひとりで楽しめるのでダメージが少ないですし、相手はプランを考える必要がないので誘いに乗りやすくなります。そうするうちに今度は友達から自分のことを誘ってくれるようになりました。また、スペインでは「友達の友達は友達」という公式が存在していて、友達同士を繋げてくれる文化があります。遊びに出かけると知らない人が来ていることもしばしば(笑)こうして一人から輪が広がっていき、徐々に現地の友達もできるようになりました。
次に、コミュニティに所属するということを意識しました。スポーツのコミュニティなど、好きなことや目指すことが同じで集まっている集団は仲良くなりやすいです。私は、チームプレーのスポーツであるチアリーディングチームに参加し、たくさんの友達をつくることができました。大学であれば、サークルやクラブ活動、語学学校であれば現地の習い事などがいいかもしれません。お互いの言語を勉強し合うLearning Exchangeといったプログラムに参加する手もあります。こういったプログラムはどの街にも必ずあるはずなので、勇気がある人は一定のペースで同じメンバーが集まるようなコミュニティに所属するといいと思います。
言語の「完璧」を手放す

語学学習の悩みは、ネイティブスピーカーでない限り一生ぶつかる壁です。だからこそ、「完璧」を目指すことは辞めて、コミュニケーションを取ることを重視しました。コミュニケーションは伝えようとする気持ちが大切。「スペイン語が話せないから...」と友達ができない状況や仕事が見つからない状況を言語のせいにしてしまいがちですが、実際には語学力は関係ありませんでした。一生懸命伝えようとすれば、相手も耳を傾けてくれます。友達作りでは、何を話せばいいかわからない時はなんでも目に入ったことをどんどん言葉にしてみました。スペイン人は陽気なので、小さなことでもそこから会話が広がっていきました。ある時、スペイン語が上達していないように感じて不安になり、「私のスペイン語って上達しているのかな?」と友達に聞いたことがありました。すると「上達しているからこそ、もっと上手になりたい、もっとネイティブに近づきたいと求めるようになって、まだまだだと感じるんだよ。それは上達している証拠だよ。」と言ってくれました。その時にハッとして、ようやく語学学習を前向きに考えることができるようになりました。その他にもスペイン語を効率よく覚えるために実践したことは主に2つ。単語を覚えることと、テキストを音読することです。最近は「Anki」というスラッシュカードをつくれるアプリがあるので、わからない単語に出会うたびに暗記カードを作り、毎日覚えていきました。音読は、一つのテキストを何度も何度も繰り返し声に出して音読しました。疲れた時はラテン音楽を聴いたり、スペインのドラマを見たりもしました。お気に入りのアーティストは、Julieta Venegas、Alvaro Soler、Tiniなど。おもしろかったドラマはNetflixで王道のペーパーハウスです。
そして初めてのバルセロナ生活で半年ほど過ぎたある日のこと、スペイン語で夢を見ました。朝目覚めて、自分が夢の中でも全てスペイン語を使っていたことに気づいた時、ものすごく感動して大きな喜びを感じたことを今でも覚えています。スペイン語の学習は「いつまでも完成することがないからこそ、一生をかけて追求できること」です。そんな一生の目標を見つけたことは、自分にとって大きな財産です。
バルセロナのお仕事ライフ
仕事が見つからない
ワーホリ生活では、最も苦労したのが仕事探しです。ワーホリスタート時には私のスペイン語レベルはB2レベル程度。その他にも英語の資格、そしてバルセロナの大学院も卒業していましたが、それでも仕事探しは思うようには進みませんでした。スペインでの仕事の募集要項には、ほとんどの場合「3年以上の同じ職務での経験必須」といったことや、「○○の学位を取得していること」と書いてあることが多く、求人はあっても条件を満たす仕事がごくわずかです。スペインでは卒業した学部と異なる分野で働くことがほとんどできないため、関連した学部を卒業していない場合はもう一度大学に入って学び直すということになります。こうしたジョブ型採用の就活市場では、アルバイト程度の仕事でも見つけるまでにとても苦労します。カフェで働きたい場合はカフェの経験がある人から採用されていくため、経験がなければ採用されません。履歴書は、直接ホームページや店舗から渡したり、求人サイトを使うなどして計50社ほどエントリーしました。経験が足りずに出せないということがよくあったので、有給・無給のインターンの求人に履歴書を出すということもしました。しかしながら、待てど暮らせど返事は来ず…。閑古鳥が鳴いていました。最終的に、スペイン到着から1ヶ月後に、直接店舗に出しに行った日本食レストランでアルバイトをさせてもらうことになりました。日本で飲食店のアルバイトをしていた経験が活かされました。そして4ヶ月後に、アパレルバイヤー兼オフィスワークの仕事を得ることができました。日本の社会人生活で得た実務経験が活かされました。
バイヤーのお仕事
ようやく見つけたバイヤーのお仕事は、自分が今までの人生で触れたことのない世界で、とても刺激的で楽しいものでした。主にPRADA(プラダ)、GUCCI(グッチ)、LOEWE(ロエベ)、TOD’S(トッズ)などのヨーロッパハイブランドで買付をし、日本に送る仕事です。週に2~3回バルセロナにあるアウトレットに行き、直接店舗にある商品を確認し、お客様が求めている商品を見つけて買付していきます。新しい商品が出ていれば、すぐに写真撮影をしてサイトにアップ。日本のお客様の好みに合いそうな商品を探します。現地での買付時はスペイン語でやりとりをしますが、仕事の仲間やお客様とは英語や日本語を使ってコミュニケーションを取ります。言語学習の成果を活かすことができ、とてもやりがいを感じられます。各店舗にたくさん通ううちにブティックの店員さんに顔と名前を覚えてもらえるようになり、新しい商品の情報をもらったり色々なサービスをしてもらえるようになりました。店員さんだけでなく、他の国に販売している世界各国のバイヤーの友達もたくさんできました。
GUCCI(グッチ)の店舗での買付では、朝の9時から10時の時間にバイヤーだけが店内に入れる「バイヤー時間」が設けられています。その時間に入店すれば、優先的に商品の買付をさせてもらうことができ、写真撮影やサイズの試着などを自由にさせてもらえます。バイヤーだけの特別な時間です。そこには、様々な国のバイヤーが集まり、何度も顔を合わせるうちに自然と友達になっていきました。「世の中にはこんな世界があったのか」とまだまだ知らない世界が広がっていることに驚きと感動を得ました。
GUCCI(グッチ)に集まるバイヤーは、もちろん他のブランドの店舗にも買付をしに行くので、他の店舗で会うこともあります。私は仲良くなったモロッコ人や韓国人、ベトナム人のバイヤーと「今日の買付はどう?」と雑談がてらに情報交換をし、とても楽しく仕事ができるようになりました。毎回買付に行くのがとても楽しみです。ハイブランド商品をたくさん買付するうちに、各ブランドの特徴や定番モデルなどを少しずつ覚えることができるので、普段は味わえない経験ができることもこの仕事の醍醐味となっています。たまたま巡り会った仕事ですが、海外のキャリアを構築する第一歩としてはとても貴重すぎる経験ができました。
仕事探しは日本にいる時から
これからワーホリに行く予定の方には、仕事探しは日本にいる時から準備をしておくことをおすすめします。カフェで働きたい場合は、日本でカフェのアルバイトを少しの期間でもやっておくこと。スペインではとにかく経験が重視されるため、日本にいる時からそのことを頭に置いて仕事の経験を積んでおくことが大切です。また、スペインでの仕事探しの特徴は、履歴書を出してから数日後に突然電話がかかってきて「明日来れる?」などといきなり面接に呼ばれるスタイルです。仕事のスタートも「では明日から」というようにいきなり呼ばれます。そのため、仕事を探している間はできる限り柔軟に動けるようにスケジュールを組んでおくといいと思います。スペイン語もできる限り学んでから来た方がスムーズです。
人生と向き合うスペイン巡礼
留学・ワーホリ中はたくさん旅行にも行きました。スペイン国内だけでなくヨーロッパ各国へも格安で旅をすることができるので、週末を使ってはたびたび国内外へ出かけていました。その中でも、一番行ってよかったと思うのがスペイン巡礼のカミーノ・デ・サンティアゴです。ポルトガルの北上、スペイン西端にあるキリスト教の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラ。聖ヤコブが眠ると言われるこの教会に向かって全長約800km続く道がスペインの巡礼路です。「道」という意味を持つスペイン語「El Camino(カミーノ)」として知られています。巡礼は、クレデンシャルという巡礼手帳にスタンプを押しながら進みます。巡礼路のどこからスタートしてもよく、道中に刻まれた貝殻のマークを目印にして一歩一歩あゆみを進めていくと、サンティアゴ・デ・コンポステーラまで辿り着くことができる、まるで巨大なスタンプラリー!有効期限はないので数年後に続きからスタートすることもできます。
世界各国からたくさんの人が集まる「フランス人の道」は、フランスのピレネーの麓からスタートし、山を越えて小さな街や修道院を通過しながら約1ヶ月間かけて巡礼路をたどるコース。私は5日間ほどの巡礼を2回経験し、フランスからピレネー山脈を超えてスペイン北部の真ん中ブルゴスのあたりまで歩きました。この巡礼の経験は本当に素晴らしく、一言では表せない感動が詰まっていました。間違いなく、人生の宝物と言える経験になりました。
魅力1. 自分と向き合える
巡礼路は、雨の日も晴れの日も800kmの道を毎日毎日ひたすら前に進む険しい道。どんなにしんどくても足が痛くても、一歩一歩を積み重ねて前に進むしかありません。何時間も自分と向き合いながら歩き続けていると「なんで歩いてるのだろう...もう辞めたい。あと一歩だけ前に進もう...。」と葛藤が生まれてきます。そして、長い時間スペインの大自然の中を一人で歩き続けるからこそ、自分との対話が深まります。「自分の好きなことってなんだろう。自分にとっての幸せってなんだろう。自分はどんな人生を歩んでいきたいんだろう...。」葛藤しながら、全力で自分自身と向き合い続けることができます。とても貴重な時間を過ごすことができました。
魅力2. かけがえのない出会いと仲間
毎日同じメンバーが同じルートを辿って歩くため、いつの間にかみんなで助け合い、自然と仲間ができていきます。世界中から集まった様々なバックグラウンドを持つ人が、同じ目的地を目指して助け合いながら歩む毎日。たとえ言語ができなくても、ひとりぼっちで挑戦しても、必ず他の巡礼者と仲間意識が芽生え行動を共にするようになっていきます。お互いを理解しあい、助け合う中で新しい発見もたくさんありました。そして、一度別れを告げた巡礼者たちと同じ巡礼路で再会を果たすこともありました。スペインの巡礼路にはこのような言葉があります。
"Nunca caminaran solos."「決して一人では歩かない。」
"Las huellas de las personas que caminaron juntas nunca se borran."
「一緒に歩いた人たちの足跡は永遠に消えない。」
人との繋がりが広がり、再会するたびに笑顔なれる道。国籍も年代も関係ありませんでした。まるでこの道は人生の道そのもの。この800kmの巡礼路には世界平和があると心から思いました。おおげさみたいな、本当のこと。巡礼での人との出会いは本当にかけがえなく、今でもカミーノで出会った人とのご縁は繫がっています。
魅力3. 色々な生き方があることを知る
私にとってスペイン巡礼で最も価値があったと思うことは、人との出会いの中で「色々な生き方があることを知れた」ことです。世界中から集まった人たちの人生のストーリーを知り、たった数日でも自分の人生に対する価値観を大きく変えることができました。巡礼では、異なる環境で生きてきた人たちがある人生のタイミングで奇跡的に同じ瞬間に集まります。一人ひとりの話を聞いていると、そこにある物語は本当に人それぞれ。誰一人同じ人生を歩む人はいませんでした。それぞれが自分の選択を積み重ねて、自分の道を歩んでいるのです。いかに自分が今まで狭い世界の中で物事を考えていたのかを知りました。「もっと自分の人生を楽しみたい!」と思うようになりました。 「自由に選択していいんだ。自分だけの人生を歩めばいいんだ。もっと好きなように生きればいいんだ!!!」と思えるようになったのは、このスペイン巡礼の経験からでした。
フランスから出発して、巡礼路を歩き続けること200km。それでもまだ600kmも残っています。いつか必ず聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラまでゴールをしたいと思っています。歩いて辿り着くその日までは、サンティアゴ・デ・コンポステーラへ行くことはお預けに。巡礼を歩き切ること、それが今の私の人生の目標です。それまではのんびりスペインへの愛を温めていこうと思います。
スペイン語で広がる世界
楽しいことも苦労することもたくさん経験できるスペイン生活。苦労はたくさんあっても、最後はやはり「来てよかった」と思います。スペイン生活を充実したものにするために、小さなことから前向きに行動してみること。 悩んだ時は誰かに一言打ち明けてみることも大切です。実は同じ気持ちになったり同じ経験をしたことがある人もたくさんいるものです。
小さなことをコツコツと積み上げていった結果、私は「スペイン語を話せる」と言えるくらいにまでスペイン語力に自信がつきました。スペイン語は、世界の母語話者人口では第2位、第二言語話者も含めた話者人口は英語・中国語・ヒンディー語に続いて第4位に話者数の多い言語です。スペイン語を話せるだけで、ヨーロッパ圏、北米の南部から中南米まで、世界が大きく広がりました。今では、スペイン語を勉強して本当によかったと思っています。これから第二外国語を学ぶのであれば、絶対にスペイン語をおすすめしたいです!そして、スペイン留学・ワーホリに挑戦するか迷っている人がいれば、「絶対に挑戦した方がいいよ!」と自信を持って背中を押したいと思います。