6 | Julio
暑い夏の昼下がり、スペインの街を歩いていると小さな道の段差につまづきました。汗ばんだ重い体を引きづりながら「足が上がらなくなってきたか...」とふと立ち止まって足元に目を向けると、金色に光る正方形のプレートに目が留まりました。よく見ると、小さく刻まれた西暦と名前。そこにあったのは、ドイツ語で「つまづきの石」という意味を持つ「シュトルパーシュタイン」です。
シュトルパーシュタインとは、第二次世界大戦の時代にナチスによって迫害・殺害された人々を追悼するための小さな記念碑。亡くなった人々が、最後に自由に暮らしていた家の前の歩道に残された記念碑なんだそうです。現在はヨーロッパ全土に10万個以上設置されており、世界最大の分散型記念碑プロジェクトと言われています。ホロコーストの悲惨な出来事を風化させないよう、人々が日常生活の中でいつでも思い出せるように、「つまづく」というコンセプトになっているのだそうです。
家の近くを調べてみると、特に旧市街地の古い街並みが残るエリアにいくつものプレートが点在しています。主にユダヤ人がその土地に多く暮らしていたことがわかります。小さなバルセロナ郊外のひと区間だけでこれだけの数の記念碑があるのに、ヨーロッパ全土となったら一体どれほど多くの人が迫害されたのだろうか...。
ヨーロッパ全土に残された記念碑、多くの人が見るべきプロジェクトだと感じました。私の住んでいるバルセロナ郊外の海街でも、少し歩けばつまづき石を見つけることができます。ゆらめく木陰を歩きながら、世界で起きていた悲惨な出来事、そしてそこで犠牲になった人々へ思いを馳せるのでした。遠い昔の出来事のようで、今も悲惨な出来事は世界で起きています。平和な日常は守らなければならないもの。「今日も何もなかった」と思える一日がどれほど貴重なものなのかを思い出す瞬間なのでした。